母乳~お母さんからの贈り物~

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助産師をしていると、多くのお母さん方が「赤ちゃんが生まれたら母乳で育てたい」と願う声をよく聞きます。10カ月間お腹の中で赤ちゃんを大切に育くんでくると、自然と湧き上がってくる思いなのでしょうね。今回は、そんな母乳をテーマに考えてみようと思います。母乳は、赤ちゃんの心身の発育に必要な栄養が、必要な分だけ赤ちゃんに合った形で含まれている、まさに総合栄養食です。消化、吸収、代謝機能が未熟な赤ちゃんに、どうやったら必要な栄養を負担なく届けられるのかを考えて精密に作られているようなもので、そんな完璧なものが、自然のメカニズムでできているという凄さに、なんだか人間の身体の神秘さを感じてしまいます。

また母乳は、免疫という素晴らしい贈り物も赤ちゃんに届けてくれます。母乳中のIgAというタンパク質は、赤ちゃんの腸に届き、腸のデコボコした表面をまるでペンキで綺麗に塗り込むようにコーティングして、細菌やウイルスの侵入を防いでくれます。また、アレルギーを防ぐ役割も果たしていることが最近の研究でわかってきました。IgAは初乳に多いのが特徴ですが、その後もずっと授乳している限り含まれ、バリア機能だけでなく、そのうち赤ちゃん自身の免疫機能の発達を促していきます。つまり、ただ守るだけでなく赤ちゃんが自分で自分の身体を守れるように促し、そうなるまで見守る役割を果たしてくれるのです。母乳には他にも複数の免疫物質が含まれていて、離乳食が始まる時期からさらに急増化するものもあります。まるで、お母さんが、自分の身体から離れても赤ちゃんを守れるように、お母さんから離れても生きていけるようにと願って作り出された最高の贈り物に思えてなりません。母乳には、その他にも赤ちゃんの成長を促すものや、ストレスなどを癒やす抗酸化物質、なんと乳汁生産を調節する物質なども含まれ、ここまでくると、なんだかもうお母さん自身の分身のようにさえ感じますね。

さらに、母乳育児にはお母さんと赤ちゃんの愛情が深まり、確かな絆形成につながりやすい、というメリットも。母乳をあげることで、赤ちゃんを抱っこする、肌と肌が触れ合う、見つめあう、話しかける、微笑みあう、こうしたやり取りを何度も何度も繰り返し、積み上げていくことができます。これらは実は赤ちゃんを育てていく上でとっても大事なことなのです。赤ちゃんにとって、母乳やミルクと同じくらい大切なものは、「愛される」こと。お母さんは、日々の生活の中で、育児に奮闘しながら時に失敗したりうまくいかなくて悩んだりすることもたくさんありますよね。でもそれは赤ちゃんのことを想っているからこそで、一緒に過ごし、笑ったり泣いたりしながら、お母さんが毎日一生懸命向き合ってくれることが赤ちゃんにとって大事なのです。そういうことを丸ごと赤ちゃん自身が感じ取り、自分を想ってくれている、お母さんに愛されている、ということを実感していくのです。赤ちゃんはお母さんが大好き。赤ちゃんの、愛されている実感が安心に変わり、次はそのメッセージをだんだんとお母さんへ発してくれるようになります。今度は赤ちゃんからの贈り物ですね。そんなやり取りの中で、次第にお互いの愛情が交差し、やがて揺るぎない絆となっていくのです。赤ちゃんって、そうやって育っていくんだと思います。ですから、ただ母乳をあげていたらそれでいいということではありません。母乳をあげながら、例えば常にお母さんがスマホに夢中になっていたり、赤ちゃんとお話しすることも全くなかったりすれば、きっと赤ちゃんはとても不安になるでしょう。母乳の栄養で身体は育つけれど、もしかしたら赤ちゃんの心は育っていないかもしれません。

赤ちゃんをミルクで育てている方の中には、病気があって母乳をあげられない、産後すぐに仕事復帰のため母乳を長くあげられない、などそれぞれの様々な事情があります。たとえ母乳があげられなくても、むしろ母乳があげられないからこそ代わりに赤ちゃんとしっかり向き合って、たくさんスキンシップをとって、愛情深く本当に素敵な育児をしている方がたくさんおられます。つまりは、赤ちゃんを育てていく上で、何が大切なことなのかをよく理解していれば、ミルクであっても、しっかりとお互いの絆を作って愛情たっぷりの育児をしていくことができるのではないでしょうか。

とはいえ、特別な事情がない限り、多くのお母さん方は「赤ちゃんにできるだけ母乳をあげたい」と願って頑張っておられます。それは、母乳をあげるということが、そもそもお母さんにとっての本能だからではないでしょうか。妊娠、出産と同様、女性の身体の自然な変化であるからこそ、赤ちゃんを見て母乳をあげたいと感じるのだと思います。そして、それがもしうまくいかない時、お母さん方はとてもつらいと感じてしまうのだと思います。きっと今、これを読んで下さっているお母さんで、「あまり母乳が出なくて自分がそうだった」という方がおられるでしょう。でも、ほんの少しの母乳であっても、たとえ1滴であったとしても、それは本当に尊い意味があると思っています。なぜならば、赤ちゃんにとっての最大の栄養はお母さんの愛情だからです。お母さんが母乳をあげたいと必死で頑張って、悩んでやってきたことの全てを、赤ちゃんはお母さんの愛情としてしっかり受け止めているはずです。

これから赤ちゃんを産んで育てていく方には、こうした母乳の持つ広い意味もふまえて、母乳について、育児について少し考えて頂くとよいのではないでしょうか。そして病院や産院、地域の助産院には助産師がいますので、何かあればいつでも相談して下さいね。それぞれのライフスタイルの中で、それぞれの母乳育児を楽しみ、幸せな子育てへとつながっていくよう、私たち助産師はいつでも応援しています。

のぐち助産院 助産師 野口あけみ
福岡県在住。市の母子保健業務に従事する傍ら、地域で乳房ケアや育児相談、骨盤ケアなどを行う助産院を開業し、自宅への訪問を中心に、現在活動中。

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