はじまりと続きの、母乳育児

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母乳育児の意味

今日は、母乳育児は、はじまりがとっても大切だということをお伝えしたいと思っています。ちょっとヘンなタイトルですが、このタイトルには色んな意味が込められています。

お母さんが赤ちゃんに母乳を実際に与えるのは、出産後からスタートしますが、赤ちゃんとお母さんとの「つながり」は、もうすでにお腹の中にいる時から始まっています。お母さんと赤ちゃんは、文字通りへその緒で「つながって」いるのは、皆さんご存知の通り。

お腹の中では、温かい羊水の中で、子宮の壁でくるまれ守られていた状態だったので、生まれたばかりの赤ちゃんは、つかまりどころのない空気中に1人置かれることに、すぐには慣れず、とても心細く感じます。だから、お母さんの胸に抱かれて、温かい肌のぬくもりを感じながらおっぱいに吸い付くことは、再びお母さんと赤ちゃんが「つながる」瞬間でもあり、赤ちゃんにとっては大きな安心感を与えてくれます。温かくて、気持ちがいい、安心するおっぱいが赤ちゃんたちは大好きです。私は、そんな風に母乳育児を捉えています。

温かくて、気持ちがいい、しかも甘くておいしい、となれば何度でもその存在を確認したくなりますよね。母乳育児は、成長のための栄養という意味もありますが、それだけではなく、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で過ごした生活の続きであり、お母さんとの新しい関係の始まりでもあると、考えてみるのはどうでしょうか。

現代の母乳育児

インターネットのサイトなどで母乳育児に関する情報を見ていると、「母乳は素晴らしいものだから、ぜひ頑張って」というものや、「母乳、母乳ってこだわることが産後のお母さんたちを追いつめている」というご意見もみられます。どちらも一理あると思います。母乳育児=完全母乳と考えると、お母さん達は、プレッシャーを感じ、窮屈になってしまうかもしれません。私自身は、少しでも母乳を飲ませていれば、それは母乳育児、と考えていますし、何を与えるかよりも、授乳タイムをお母さんと赤ちゃんがゆっくりと向き合う時間にしていくことが大切ではないかと思っています。

現代日本の女性たちは大変です。少子化のため出産することを期待され、なおかつ重要な労働力として活躍することも求められています。真面目な方が多いですから、出産に続く母乳育児についても、皆さん本当に必死で取り組んでいます。平成27年度の厚労省のデータでは、10年前と比べ、母乳栄養率は生後1ヵ月では、42.4%から51.3%へ、生後3か月では38.0%から54.7%へと、上昇しています。日頃のお母さんたちの頑張りを見てきた私たち助産師にとっては、嬉しい結果です。この調査でいう「母乳栄養率」とは、母乳のみで育っている赤ちゃんの割合を指しているので、本当のところは、もっと多くの人がミルクも足しながらの母乳育児をされているに違いありません。

同じ調査で注目の結果をもう一つ。妊娠中に「ぜひ母乳で」または「出れば母乳で」わが子を育てたいと思っていた人の割合は、両方合わせて93.4%でした。そして、産後1ヵ月で、実際の母乳栄養率が最も高かったのは、「ぜひ母乳で」と回答したお母さん達でした。

この結果は何を意味しているのでしょうか。そうなりたい、と強く願い、諦めずに続けていくことで、母乳育児は成功する確率が高いことを示しているのではないでしょうか。実際のところ、本当に母乳が出ない人は、ほとんどいないだろう、と私は思っています。

はじめ方と続け方

では、母乳で育てたかったけれども、母乳があまり出なくてミルクの割合が多くなった、という人の場合、それは、いつの時期に、どういう状況でそうなっていったのでしょう。
母乳育児が上手くいくためのコツは、全てをお話ししきれないほどたくさんありますが、どの方にも共通して言える最大のコツは、ともかく諦めずに、愚直に飲ませ続けるということです。なんだ、そんなこと!?という声が聞こえてきそうですね。産後1ヵ月の時期に、それが簡単なことではないこと、経験者の方は知っていますよね。

この時期の赤ちゃんは、しょっちゅう泣いて、すぐおっぱいや抱っこを要求します。こんなに泣くし、寝ないし、母乳が足りてないんじゃないの?とお母さんもご家族も心配になります。産後の回復途中の体に、24時間エンドレスで続く授乳と赤ちゃんのお世話。お母さん達の睡眠不足や疲労感は極限にまで達しようかというくらいになります。結果として母乳だけになった、という人たちでも、この時期に辛くて涙を流しました、と言う人はとても多くみられます。赤ちゃんたちは、おっぱいが大好き。お腹が空いてなくても、甘えたいとき、不安な時、寒い時暑い時、ウンチ出そうでお腹が痛い時、とりあえず、おっぱい!という感じです。心落ち着くものとしておっぱいは大活躍です。

母乳が良く出ているか否かにかかわらず、この時期、必然的に授乳回数はどなたも多くなるのです。そして、赤ちゃんの求めに応じて、何度も何度も母乳を飲ませること、それこそが母乳を増やしていける唯一の方法です。母乳の製造元である女性ホルモンを活発に活動させるためには、赤ちゃんにおっぱいを直接吸ってもらうという刺激が必要不可欠です。最初はゆっくりと、少しずつ母乳を作り始めるのですが、作った母乳は赤ちゃんが飲んで、すぐ無くなってしまいます。すると、製造元の工場には、在庫がないよ、足りないよ、もっと稼働してたくさん作ってよ!と命令が出されます。次第に、製造のピッチがあがり、すごい勢いで母乳が作られていきます。そして、産後に初めて胸が「張ってくる」という状態になるのですね。

また、赤ちゃんが色んな理由から回数多く母乳を求めるのは、生まれて1,2か月がピークです。この時期に、大変だけれども赤ちゃんのペースに合わせて、おっぱいを吸わせることで母乳分泌量も増やすことができます。3,4ヵ月にもなると授乳のリズムも整い、赤ちゃんの興味は少しずつおっぱい以外のことにも向き始めるので、母乳を集中して飲むことが難しくなってきます。母乳分泌を増やすチャンスは産後1,2か月にある、ということです。

人間のからだや心には個性があって、変化する道筋はひとつ限りではありません。
数日で母乳があふれてくるような人もいれば、母乳が十分に出るようになるまで1,2か月かかる人もいます。根気強く、諦めずに続けることが大切なのです。その間、必要な場合はミルクを補足していくことももちろんあります。赤ちゃんの母乳哺乳量が十分なのかどうかは、体重測定をして客観的に判断していきます。赤ちゃんが何度も母乳を欲しがったり、よく泣く、ということがそのまま母乳が不足しているとは限らないのがこの時期、多くの方が悩むところだと思います。

母乳を続けながらミルクを足す場合もポイントがあります。赤ちゃんは経験値ゼロで生まれ、これから体験していく全てのことを、学んでいく存在です。当然、多く経験するものに「慣れ」ていくのです。母乳育児を続けるうえで、哺乳瓶やミルクの回数を、いつ、どのくらい与えるかを考慮することは、とても大事です。母乳をいくら与えても、いつも欲しがっている、よく泣いて困る、そんなときに不安が強くなり、必要のないミルクを増やしていくと、赤ちゃんたちはおっぱいに吸い付かなくなってしまうことがあります。赤ちゃんに必要な分だけのミルクを足すようにすることがミソです。

赤ちゃんにもお母さん同様、持って生まれた個性があります。母乳育児はお母さんと赤ちゃんのコンビネーションが上手くいって初めて軌道に乗っていくものですから、なんだか上手くいかないな、と思っている方はどうぞ、助産師など母乳育児の専門家にその時々で相談をしてくださいね。きっと、お母さんと赤ちゃん、二人の個性を含めて一緒に考えてくれると思います。

早い時期に相談してもらいたいのは、授乳のときの抱き方や、赤ちゃんへの飲ませ方です。

お母さんが楽な姿勢で、上手に赤ちゃんを抱き、タイミングよくおっぱいをくわえさせることは、思っている以上に大事です。これをほんのちょっと工夫するだけで、赤ちゃんが飲めるようになる母乳の量がグンと違ってくることもままあります。

そして、気力も体力もたくさん使うこの時期に、ご家族のサポートがあることがお母さんの大きな支えになっています。赤ちゃんが泣き止まずに休むことが出来ない時、「代わりに抱っこしておいてあげるから、その間、寝てていいよ」と言ってくれる人がいたり、赤ちゃんをお風呂に入れてくれたり、そのような気遣いがお母さんたちの助けになります。一人で頑張り過ぎてしまうお母さんたちも多くいるので、お母さん自身も「つらい、助けてほしい」とSOSのサインを遠慮なく周囲に話していくことも大事です。

やっぱり母乳育児って大変なのね、と思われた方もいるかもしれませんね。それでも尚、多くの方が自分の子は母乳で育てたい、と願っている事実は、お母さん達も赤ちゃんとの「つながり」を実感できる母乳育児に魅かれているのではないかと私は思うのです。今しかないこの時期の母乳育児を、赤ちゃんとお母さん二人に合ったペースではじめて、そして、少しでも長く楽しみ、続けていってくださるお母さん方が益々増えることを願っています。

助産師 鄭 香苗

総合病院、産科クリニックでの看護師・助産師勤務を経て、看護教育施設に在職

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